小金井書房ブログ

平安、孤独、楽しさ、をテーマに

一人を楽しむ姿に深く共感、漫画『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』

 

清野とおるさんの漫画の面白さ

清野とおるさんの漫画を読んだのは有名な『東京都北区赤羽』が最初です。

清野さんの漫画は何というか、いけてる感じの人が出てきません。

若い女性もほとんど出てこないし、怪しい変な人とかホームレスの人とか、アウトロー(社会秩序からはみ出ている人)な感じの人ばかり出てきます。

主人公(清野氏本人)も今時こんな格好の青年がいるかというようなファッションと髪型で、まるで『ドラえもん』の「のび太」のようないで立ち。

(ただ、現実の清野氏はシュッとしたイケメン風なのでまるで別人)

今世間で割と多いお洒落な雰囲気と綺麗な絵の漫画とは一線を画す世界観。

そんな所に強い個性と魅力を感じました。

 

『赤羽』には、「えっ」と驚くような、「こんな人、いていいの?」という感じの変な人ばかり出てきます。

社会っていうのは真面目でちゃんとしていないと怒られたり白い目で見られる怖い世界だと思っていたのが、

清野さんの漫画を読むと「こんなに滅茶苦茶な人たちが現実にいてもいいんだ」「世界ってもっと自由なんだ」と、肩の力が抜けて全身の緊張がほぐれるような、すごく自由で楽な気持ちになれます。

 

自分だけの幸せを一人で楽しむ「おこだわり人」たち

さて、今回取り上げるのは、そんな清野とおる氏の漫画『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』という作品。

読んでみると、相変わらず「こんな面白い人がいるのか」という、『赤羽』とはまた違う種類の魅力に満ちた人たちが登場する作品でした。

設定としては、自分だけのおこだわりを持つ「おこだわり人(びと)」たちに漫画の中で清野氏がそれぞれインタビューしていくというスタイル。

 「おこだわり人」とは、清野さんの定義によると

「つまらない日常生活の中で別にこだわらなくてもいい事にあえてこだわり、そこに自分だけの幸せを見出しコソコソと楽しんでいる輩」

のことです。

 

特徴的なのは、この漫画で紹介されているおこだわりのほとんどがお金をかけず、一人でも楽しめる身近なものだということ。

だから深く共感しやすいですし、読んだ人がすぐにでも自分で取り入れることができるようなものばかりです。

例えば、海外旅行が大好きでそこにおこだわりを持っているという人が登場しても、たしかに海外旅行は楽しいかもしれませんが、それを楽しめる環境にあるのはある程度お金のある限られた人になります。

でも、この漫画に登場するのは、

 

寝るのが大好きな「寝る男」

自分の上着の内ポケットを愛でる「内ポケットの男」

最寄駅から自宅まで徒歩で帰る道を全力で楽しむ「帰る男」

白湯(さゆ)を味わう「白湯リスト」

自宅マンションの小さなベランダで過ごすのを楽しむ「ベランダの男」

休みの土日は誰にも会わずに一人で過ごしたい「土日、人に会わぬ男」

といった人たち。

 

こんな感じで、楽しんでいる素材自体はほとんど誰でも持っているようなごくごく身近なものですから、多くの人が読んで共感できるというのがこの漫画の最大の特徴であり、魅力ではないかと思います。

 

つまらない日常に小さなお楽しみを

この漫画に登場する人たちは、一人を楽しむ方法を編み出してそれをこっそり愛でる、いわば「楽しみの達人」たち。

誰かと楽しみを共有するのではなくて、一人でコソコソ楽しむというのがまたそそります。

この漫画のおこだわり人たちを見ていると、ああ、楽しみがあるのっていいなあ、と思わずにいられません。

不況の時代にあっても、自分が大変な環境にあっても、こういった小さな楽しみが一つでもあれば、毎日をなんとかやっていこうという気になれる気がします。

本当に、その楽しみがあるかどうかで自殺する人とそうしなくて済む人に分かれるといっても過言ではないかもしれません。

そう考えると、ギャグ漫画のように見えて、日常を生き延びていくための重要なことを私たちに教えてくれている作品でもあると思います。

 

今後も色々なおこだわりを楽しんでいる人を見たいですし、1巻と2巻ではほとんど登場しなかった、女性でおこだわりを楽しんでいる人も見てみたいです。

『赤羽』といい、この作品でも相変わらず女性がほとんど出てきません。

一応一人だけいたのが、人工甘味料「パルスイート」を持ち歩いていて、喫茶店のコーヒーにこっそり入れて飲む「パルおばさん」でした。

清野さんは女性(特に若い女性)を登場させないことにポリシーがあるのでしょうか。

たしかに若い女性が沢山出てくると、清野さんの漫画の魅力であり特徴である「お洒落じゃない感じ」が薄れてしまう気はします。

今後はパルおばさん以外の女性の登場も是非待ち望んでいます。