小金井書房ブログ

平安、孤独、楽しさ

本筋ではない場所に意外な面白さがある

 

最近、ここ数ヶ月で個人的に面白かった出来事を思い出してみたら、結構どうでもいいようなことが案外面白かったものとして記憶に残っているということに、ふと気づいた。

 

pha氏らのドキュメンタリー番組

以前、テレビで「会社と家族にサヨナラ ~ニートの先の幸せ~」というドキュメンタリーを見た。有名な元ニートのphaさんを中心に、「働きたくない」「社会が苦手」という人たちを追った興味深い番組だったのだが、その番組のナレーションをお笑い芸人の又吉直樹氏が担当していた。

その、抑揚のない、感情がない感じのナレーションが、何とも言えず面白かった。

 

「午前9時半。phaさんにしては、早起きです」

「突如、一階の整理を始めたphaさん」

 

といった、phaさんの行動とそれに対するナレーションがどうにも可笑しくて、一人で笑ってしまった。別にコメディタッチのドキュメンタリーではなかったのだけれど。

また、番組では、phaさんが自分が住んでいるビルの三階で、少し前からインターネットの動画配信を監視する週一回のアルバイトを始めた様子を撮影していたのだが、
その日のバイトが終了する時間になって、phaさんが上司の人に「じゃあ、一時なのでそろそろ」と切り出す場面が、何だか一刻も早く帰りたがっているように見えて、面白かった。

 

番組自体は、社会で一般的とされる仕事や家族関係に囚われない生き方をしている人たちが登場し、それぞれに色々な事情や悩みがあり、共感したり考えさせられる興味深いものだったけれど、
それはそれとして、今挙げたあまり重要でないような場面やナレーションなどが、不思議なもので私には妙に面白くて、記憶に残ったのだった。

 

写真撮影旅行に出かけて

それとは別の話だが、私は写真を撮ることが趣味の一つで、年に何度か安いビジネスホテルに宿をとり、一人で少し遠くまで風景写真などを撮りに行くことがある。

これが私にとっては楽しみなイベントで、今年の八月にもいつものようにホテルに宿をとり、撮影に出かけてきた。

 

その日の天気は、前日の予報では曇りのち晴れで、最高気温は33度になるということだった。

33度で長時間の撮影はきついか、と思ったけれど、あまり時間をかけず少し早めに切り上げれば大丈夫だろうと、午後ホテルにチェックインした後早速撮影に出かけたら、急に予想外の激しい雨が降ってきた。

しばらくして雨はやんだが、その雨の影響で、午後の外の気温はただでさえ33度もある上に、湿度が100%近い状態になり、写真を撮ろうと外を歩いていると、今まで味わったことがないほどの不快な蒸し暑さに。

次第に熱中症の手前のような状態になってきて、これ以上歩くのは危険と判断し、まだほとんど写真を撮ってもいないのに、やむなく撮影を中断することにした。

この日のためにわざわざ宿までとり、お金も時間もかけて来たのにほとんど何も撮れなかったなんて、いったい何しに来たんだ、とがっくりと落ち込み、しかたなくとぼとぼとホテルの部屋へと帰った。

 

その夜、いつもならホテルの部屋でその日撮った写真の編集をするのだが、その日はやることもない。

しかたなくテレビをつけると、普段ほとんど見ることがない民放のチャンネルで、ロンドンの世界陸上のマラソンを放送していた。ちょうど、公務員ランナーとして有名な日本の川内優輝選手が走っているところだった。

川内選手は、普通ではないほどきつそうな表情をしていた。

マラソンの選手でこんなにきつそうな顔をして走っている人をかつて見たことがなかったので、(大丈夫だろうか。死んでしまうんじゃないか)と思ったが、CMになったので何となくチャンネルを変えた。

チャンネルを変えると、ちょうどダウンタウン松本人志氏たちが、外の暑い中をロケでだるそうな雰囲気でだらだらと歩いているところだった。

それをぼんやりと見ていたら、驚くほどやる気のない様子で歩いていた松本氏が、ふと

「おれ、今アイスコーヒー飲めへんかったら死んだ方がましやわ」

というような発言をした。

それが、尋常でなく面白かった。

つい先ほど川内選手が死ぬほどきつそうな様子で走っていたのに、それとのギャップが可笑しくて、思わず声を出して笑ってしまった。

 

翌日の午前中、チェックアウトしようとホテルの部屋を出て、フロントのある階へ行くエレベーターを待っていると、他の部屋から同じくチェックアウトするために出てきた一人の若い女性と鉢合わせた。

こうやって何度かホテルに泊まっているけど、他の部屋に泊まっている人を見かける機会が今までほとんどなかったので、珍しいなと思っていたら、さらにもう一人、別の女性が他の部屋から同じように出てきた。

その43歳くらいの女性は、私たちに気づくと「あら」という表情をして、急にそわそわし出した。あまり、自分の姿を見られたくないというような様子だった。

結局、私を含めて合計三人で、黙ってエレベーターに乗ってフロントに向かうことに。

43歳(推定)の女性は、エレベーターの中でも終始落ち着かない様子でそわそわしていた。

その、同じホテルに昨夜一人で泊まっていた見ず知らずの者同士でエレベーターに乗っている時間と、43歳(推定)の女性の異様な焦りようが、何だか妙に可笑しかった。

そのあとホテルから帰宅する途中の電車に乗っていたら、隣に座った5歳くらいの女の子が、「自力でジャンケンに勝ちたい」「自力で~」と、やたらと「自力」という言葉を連発していた。いったいどこで覚えたのか。

 

結局、メインの目的であった写真はほとんど撮れなかったものの、変な所で面白いことが色々とあった小旅行だった(ここに書いていない個人的に面白かったことも、まだいくつかあった)。

冒頭のドキュメンタリーを見た時もそうだけれど、そういう本筋とは関係ないどうでもいいようなことが案外面白くて、いつまでも記憶に残っていたりするから不思議だ。

面白さというのは、本筋やメインの場所にあるとはかぎらない。