(『刺激から離れる生活』 <第5章 人間関係の刺激> より抜粋)
自意識=自分の価値が高いか低いかを気にする心
自意識というのは、自分が人からどう見られているかを気にすることや、自分で自分のことをどう思うかを気にする意識のことです。言い換えれば、「自分の価値はどうなのか」ということを気にする心のことです。
人にとって自分の価値というのは最大の関心事とも言えます。ですから私たちは自分の評価に関することで感情が強く揺り動かされ、そのことで怒ったり、喜んだり、傷ついたり、落ち込んだりと、自分の価値に関わることでとても感情的になります。自意識にまつわるものはとても刺激が強いのです。
例えば、人は自分の収入が多いとか何かの試験に合格したといった場合、自分の価値が高いと感じることができて喜びます。その逆の場合には、自分の価値を低いと感じて落ち込みます。もし異性にモテれば自分は魅力的で価値がある人間だと感じて嬉しくなり、異性に相手にされなければ自分には魅力がない、価値がないと落胆します。
我々は日常の多くの出来事をこのように無意識のうちに自分の価値と結び付けて考えていて、自分の価値が高いのか低いのかということをとても気にしているのです。
しかし、「自意識過剰」という言葉があるように、人の自意識が強過ぎる状態というのは世間では良くないものとして捉えられています。それはきっと、人が何度も自分を鏡で見るように自分の価値を気にしている姿は、傍から見ていてあまり気持ちの良いものではないからでしょう。ナルシストの人が魅力的に見えないことと同じです。
私はこの自意識というものが、近年この社会に生きる人たちの中でとても強いものになってきているのではないかと感じます。そして実はそのことが私たちに多くの悩みを生み出していると思っています。
自分が他人からどう見られるかが気になる
人が抱える悩みの多くは、自意識と関係していることが多いものです。
最近、大学生が学校で一人で食事をしているところを見られたくないという話を聞きます。なぜそういう姿を見られたくないのかというと、一人で食事していることで自分が友人がいない人間であると思われたくないからだそうです。友達がいない自分はコミュニケーション能力も低く人として価値が低いと、そういう風に思われたくないのだそうです。
また、体が痩せたいと本気で悩んでいる人がいます。これは、太っている自分は美しくない、価値が低いという思いが背景にあります。
さて、ここで注目したいのは、このような悩みの多くは「他人にどう見られるか」ということが原因になっているという点です。
実はこのように、人の悩みの多くは「他人に~と思われたい」「他人に~と思われたくない」という、自分が他人からどう見られるかを気にする意識から生まれているのです。このような意識が、時には人を自殺に追い込むほど苦しめることもあります。
ところが、これは先ほど言った自意識過剰という状態でして、他人からの評価を気にする意識が高過ぎるせいで苦しみが生まれてしまっているのです。
そしてその心理の裏にはやはり、「自分の価値が高くありたい」「自分の価値が低いのは嫌だ」という潜在的な思いが存在しています。
高い自意識が心をブレやすくし、人から嫌われる要因にも
こういった精神状態は、「プライドが高い」と言い換えることもできます。
自分の価値が高くありたいとそこまで思うのは、「自分の価値が低いなんて許せない」「そんな自分は認めたくない」という自尊心が強すぎるからです。そして、この高いプライドや強い自尊心というものが、実は苦しみの原因となるものなのです。
例えば、プライドがそれほど高くない人は、自分が何かで失敗したり人から怒られたりした場合、「あちゃ~」とか「まあ、いつものことだ」というぐらいの感じで現状を受け止めることができます。
ところが、自意識が高い人が何かで失敗したり怒られたりすると、「優秀なはずの私が失敗をしてしまった!」「人から無能な人間だと思われたらどうしよう」と激しく動揺します。
こうして自尊心が強くて自分の価値を気にする人ほど、人からちょっと低く評価されただけで落ち込んだり、些細な失敗をしただけで大きなショックを受けやすくなります。そしてちょっとしたことで落ち込んだり喜んだりしてしまう、心がブレやすく不安定な人になってしまうのです。
ですから、自意識が強過ぎるということは心の安定にとっては大きな問題と言えます。
それから自意識が強いことのもう一つの弊害としては、先ほども少し触れましたが、他人から魅力的に見えないこと、人から嫌われることが挙げられます。
自意識が強い人というのは、今見たようにプライドが高い人のことです。プライドが高い人は、鼻持ちならない人として通常人からはあまり好まれません。自分の務め先の自慢をしたり、家族やペットの自慢話ばかりする人が世間で嫌われているというのはよくある光景ですが、これも「そういう立派な会社にいる私」「素敵な配偶者や子供がいる私」という「価値の高いこの私」という自意識が、目の前の人を不愉快な気持ちにさせているのです。
自意識というものは本人の悩みを生み出すだけでなく、他者からも嫌われる要因ともなるものです。
逆に、この過剰な自意識を低めていくことで、私たちの心は安定しますし、周囲の人からも自然と好感を持たれやすくなります。