小金井書房ブログ

孤独、哀愁、静けさ

村上春樹氏の新作小説の人気にざわめく

 

 村上春樹氏の新作の小説が出ていて、どうも最近売れているらしい。

先日、外出先で何人かの人たちがその本のことを話題にしているのを偶然耳にした。

 私は普段テレビをあまり見ないし、知人も少ないので、世の中の最新の情報には割と疎い。だから、その本のことも全然知らなかった。

たしか、『キシダン殺し』というタイトルの本らしい。

 

キシダン…

キシダン……

…あの気志團か。

 

 気志團といえば、テレビをあまり見ない私でもその存在は知っている。

リーゼントに学ラン姿の、一昔前の不良の格好をしたロックバンド的な人たちだろう。

 『気志團殺し』ということは、気志團のメンバーが殺されるという内容のミステリー小説なのだろうか。

 何者かによって次々に殺されていく気志團のメンバー。

殺害現場には、「愛 羅 武 勇」「喧嘩上等」「幸せにしかしねーから」といった、彼らのアルバムや楽曲のタイトルである文字だけが残されていた。

はたして、犯人の狙いはいったい何なのか。なぜ、メンバーは殺されなければならなかったのか。

名探偵が、気志團のマネージャーやメンバーの地元である千葉県君津市や富津市の住人たちに聞き込みを重ねていくうちに、意外な事実が次々と浮き彫りになってくる。

そして、ついに明らかになる驚愕の犯人の正体とその動機とは…。

 

 そういう本なのだろうか。

 しかし、はて…。

村上春樹という作家はそういう本を書く人だっただろうか。

私の知っているかぎりでは大分違う気がする。

村上春樹の本といえば、もっとこう、スターバックスにいる人たちがお洒落な感じの飲み物を飲みながら表紙にカバーをせずに読んでいるような本ではなかっただろうか。(かなり間違った偏見か。ただ、本当にそういう人を見たことがある)

でも、もしかしたら村上春樹氏も、長く作家としてのキャリアを積み重ねる中で新たな境地に至り、作風が変わった可能性だってあり得るだろう。

 そんなことを考えつつ今日も電車に乗っていたところ、隣に座っていた43歳くらいの女性の二人組が、まさにその『気志團殺し』について話をしていた。

「初版だけで130万部出版された」

「韓国で版権争奪戦が過熱しているらしい」

などと、やたらと景気のいい言葉が耳に入ってくる。

(韓国の人は、はたして気志團のことを知っているのだろうか…?)

 などと心配をしつつも、それにしてもやはり人気作家となるとモノが違う、と私はただただ感心する。

 なるほど。売れるというのは、こういうことなんだな。

どこへ行ってもその話題で持ち切りで、みんなが夢中になってそのことについて話をしている。

小金井書房の本も、いつかそんな風に売れてみたい…。

 私は自分の心の中に存在している手帳に

「売れたい いつか 村上春樹みたいに」

と、強い羨望の思いとともに書き込んだ。

 

 しかし…。

どうにも残る、この違和感は何だろう。

 やはり、村上春樹と「愛 羅 武 勇」がどうしても私には結びつかないのだ。

そこで、気になって居ても立ってもいられなくなった私は、本屋に行って実際にその本をこの目で確かめてみることにした。

 電車を降り、駅前の本屋を見つけて駆け込むように入る。

どこだ。村上春樹の新作は…!

あった! すぐにわかった。

というのも、店に入ってすぐの、店の一番目立つところに大きく積まれていたからだ。

さすがだ。

そして、本のタイトルが私の目に飛び込んできた。

 

『騎士団長殺し』

 

 

気志團、全然関係なかった。