静かなひとり暮らしたち
思えば、東京というところは、実際に住むまで、かなり不思議な存在だった。
周りの人たちを見ていると、時々思う。自分はどこか、変なんじゃないだろうか。そんな感覚が、いつもどこかにある。
散歩から帰ったあと、少し休んでから、夕飯の準備に取り掛かる。 夕飯は毎日、時間をかけて作る。今日のメニューは、麻婆豆腐と、ほうれん草の胡麻和え。麻婆豆腐は、よく作る好きな料理だ。以前に料理本で作り方を覚えてから、よく作るようになった。
一人暮らしで、知人のまったくいない東京では、日常の中で人に会うということがなくて、この店みたいに人が多い場所にいるのが、なんとなく落ち着く。
レジカウンターの中で、返却ボックスに入れられた商品の返却処理をしていると、自動ドアが開いて、お客が入ってくる。 「いらっしゃいませー」 ちらりとお客の方を見て、また作業を続ける。
帰宅する人たちの混雑に紛れて駅を出ると、じっとりとした空気が、肌にまとわりついてくる。
目が覚めると、カーテンの向こうが明るい。時計を見ると、午後三時少し前だった。
十月の晴れ渡る青空を背景に、東京都心の高層ビル群を、下から眺めている。
午前中のうちに、畑に増えていた不要な雑草を除去した。昼食を食べて、そのあと、少し昼寝をする。 昼寝から覚めたあと、家の中を掃除したり、洗濯物を取り込んでたたんだりと、細々とした作業を済ませているうちに、午後三時のお茶の時間になる。
深夜。 ひっそりとした住宅街の中を歩く。 誰も人のいない道路を、街灯が静かに照らしている。
仕事から帰るいつもの電車の中。混雑した車内のドア付近に立って、読みかけの本を読んでいる。
一日の朝は、体操から始める。晴れている日は、庭に出て、太陽の光を浴びながらやることにしている。
<ひっそり一人で、暮らしています。> 小金井書房の新刊『静かなひとり暮らしたち』。年齢も性別も様々なひとり暮らしの人物たちの、五つの短編小説。