ダメな自分を受け入れる。本『がんばらない練習』(pha著)
無気力さと暗い感情を綴った本
『がんばらない練習』は、元「日本一有名なニート」として知られるpha氏のエッセイ本。「練習」とタイトルにありますが、何かのトレーニングを促す内容というわけではなく、普通にpha氏のエッセイ集というスタイルの本です。
この本は2019年に発行されたもので、最初に読んだとき、これまでに出版された他のpha氏の本とは少し違うと感じました。
これまでのpha氏の本は、読者やpha氏のフォロワー的な人たちに対して、「こういう時はこうしよう」という啓発的な感じの本が多かったように思いますが、この本は、自身の生活や日常についての内省的なエッセイという内容になっています。
そして何より、とにかく暗いというのが第一印象でした。本書のあとがきでも、執筆にあたってpha氏が編集者に「暗いものしか書けない」と言ったと綴られています。
まさにその暗さこそが、この本の最大の特徴であり魅力ではないかと私は思います。
本書は、読んでいて痛快なほど無気力で暗いです。「何だか最近精神的に不安定」「最近全然やる気が湧かない」「毎日虚無な感じで寝て過ごしている」、といったようなフレーズが頻繁に登場します。
普通の人にできて自分にできないことがある
本書では、筆者のpha氏が苦手とするものが多く紹介されています。
たとえば、人との会話の仕方がわからない、服装に気を遣うことができない、人生設計のことを考えられない、何かを決めるのが苦手、どの席に座ったらいいか作法がわからない等の理由で居酒屋が怖い、などなど。
一日に一つか二つ用事が入っただけで疲れてしまったり、遊びでも人と会って社交するとエネルギーを消耗して1、2時間ほどで疲れ果ててしまう。そして、人と話したり騒々しい場所にいると、頭の中がワーッとなってパニックになってしまうことがあるそうです。
たしかに、人と普通に会話をするとか服装に気を遣うといったことは、特に誰かに教えられたり教育されるわけでもなく、この社会では一般的な大人ならばできるということになっています。実際、できる人の方が多数派でしょう。
しかし、多数派の人ができるからといって、全員ができるわけではありません。
みんなができること、普通の人ならできるとされていることができない人も世の中にはいます。人によっては、生まれ持った身体的なハンディ等によってできないことだってあるでしょう。
そういうものって、他人からは見えにくかったりするので気づかれていないというだけで、実は案外多くの人が持っているものなんじゃないでしょうか。
もちろん、私にもあります。多くの人にはできるのに、自分にはできないというものが。
自分のダメな部分を受け入れると楽になれる
この本の表紙の折り返しの部分には、「ダメな自分を受け入れるところから始めよう」と書かれています。
自分の駄目な部分を直視し受け入れるというのは、なかなか簡単なことではありません。
自分に駄目な部分があるというのは一般的に恥ずかしいことですし、普通は誰だって自分は駄目な奴だとか、他人より劣った存在だとは思いたくないもの。特に、プライドが高い人や、自分のことを優秀だと思っている人ほど、自分のそういう部分を認めることが難しいのではないかと思います。
中には、自分の駄目な部分を見せまいと必死に隠して生きている人もいます。駄目な部分は人から見えないように隠し、逆に、格好いい部分は誇張して見せたりしているのです(見る目のある人にはそれがばれてしまっていたりするのですが…)。
でも、どんなに傍からは立派に見える人だって、表に見えないだけで、実際にはおそらく駄目な所もあるはずなのです。
そして、一度それを自分で認めて受け入れることができてしまうと、ものすごく楽になれます。「なんだ、こんなに楽になれるんだったら、もっと早く認めればよかった」と思えることになるでしょう。
pha氏は精神が落ち着かない時、お気に入りの布を触ると楽になれるそうです。鞄の中にいつもお気に入りの触り心地のいい手拭いを入れていて、疲れた時や動揺した時にそれに触れて気分を落ち着かせるとのこと。本書の中で、そのエピソードが私には印象的でした。
このように、普段から自分の駄目な部分や弱点を認めて把握していれば、それに対する対処法を用意することが可能になるというメリットもあるのです。
やる気や元気がない時にほっとできる本
人は自分の暗い感情や駄目な部分を通常あまり表には出しませんので、普通に暮らしていると、他人の中にあるそういう部分はとても見えにくくなっています。
すると、自分以外の人が皆ダメな部分のない優秀な人に見えて、どうして自分だけがこんなに駄目なんだろう、こんなに苦しいんだろう、という風に思ってしまいがちです。
でも、実際にはそんなことはありません。表には見えないだけで、世の中の多くの人は実は駄目な部分を抱えているもの。
ですから、この本のようにそれを表に出してもらえると、「ああ、自分だけじゃなかったんだな」とほっとします。
今でこそニートやひきこもりの人たちに対する社会の理解や共感がある程度存在するようになりましたが、そんなものがほぼなかった時から自分の駄目な部分を堂々と表現し続けているpha氏はすごいと思いますし、自分のマイナスな部分や感情を隠さないからこそ多くの人の共感を得ているのでしょう。
自分が駄目に思えてしかたないときや、人に言いづらいような暗い感情を抱えているとき、人は孤独です。
そういうとき、そんな状況にあるのは自分だけじゃないと思えるのは、相当大きな助けになります。自分と同じような人がこの世の中にはいる。それを知ることができるだけで、すごく楽になれます。
もし現在、自分のことが駄目に思えて辛いとか、無気力さに悩んでいるという人がいたら、この本はおすすめかもしれません。なんとなくほっとするというか、気持ちが楽になれるのではないかと思います。